【レポート】チェルシーアカデミー2019『私たちは本当に豊かなの?』地域や社会に貢献するデザインとは。 by若杉浩一先生【武蔵野美術大学】

activity2019.11.18

チェルシーハウスでは、寮生の通う大学の先生方をお迎えして特別授業を行う「チェルシーアカデミー」というイベントを開催しています。

自分の大学以外の先生の話を聞き新しい学びを得られるめったにない機会なので寮生にも人気のイベントです。

今回は、チェルシーハウス国分寺に武蔵野美術大学の若杉先生をお招きし“『私たちは本当に豊かなの?』地域や社会に貢献するデザインとは”というテーマで授業を行いました。

 

当日の講義の様子をレポートしました。

講師プロフィール
若杉浩一(わかすぎこういち)先生

武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授

地域、社会の経済循環するためのデザイン、関係づくり、リレーションデザインを研究テーマとし、消費者ではなく、共創者としての人材育成、地域の素材、人材を活かす仕組みやデザインなど、地域と企業と連携しながら新しい価値づくりを行ってきた。

「俺のやっていることは悪なのではないか?」社会で芽生える理想と現実のギャップ

熊本県に生まれ、地元の進学校に進んだ後、九州芸術工科大学を卒業した若杉先生は、デザイン会社に勤めます。

マスプロダクト(量産品)のデザインを行い、様々なヒット商品を生み出していく日々の仕事の中で、若杉先生は消費社会の中のデザイン活動に疑問を感じたといいます。

―本来必要ないものにデザインを施し、価値の無いものを価値があるようにみせて消費をあおり、利益を生み出していく。それは本当に正しいことなのだろうか?

「人々の生活を豊かにできるような美しいものを作り出したい!」という理想と消費を促すためのデザインという現実のギャップに苦しみ、20代は「自分のやっていることは悪なのではないか」そんな疑問と格闘していたそうです。

利益を上げることを最優先とするサラリーマンとして、感じてはいけない疑問でした。

利益よりも社会的な価値を重視する若杉先生は、次第に会社の中でも厄介者扱いされていったそうです。

先生の授業を受けた寮生が描いたグラフィックレコード

今回の授業を受けた寮生が描いたグラフィックレコード

その当時を振り返って若杉先生はこんなことをおっしゃっていました。

「とにかく悩んだ、手あたり次第本を読み漁り、それでも何が正しいのか分からず、夜な夜な悔しさで目から得体のしれない汁を流すそんな日々だった」

職業訓練校に通うなど、デザインと名の付くものならどんな仕事でも引き受けたといいます。

周りから理解されず会社の中でも孤立していく若杉先生の心の支えになっていたものは「デザインが好きだ!」ただその想いだけだったといいます。

「若杉先生の運命を変えた、杉との出会い」

そんな中、若杉先生は運命的な出会いをします。

それは、“杉”との出会いです。

杉が若杉先生の運命を変えた

かつて日本の産業の中心でもあった林業は戦後の工業化でどんどん衰退していきます。

それに伴い浮上してきたのが、植林によって大量に植えられた杉の後処理問題でした。

人間の勝手で植えられ、増やされるだけ増やされた杉が日本の山林に放置され花粉症の原因として人々に忌み嫌われている。

そんな杉に資本主義社会への疑問を問い続けた自分の境遇を重ねたといいます。

「俺が何とかしなければ!」そんな想いに駆らせた若杉先生は、日本全国スギダラケ倶楽部を発足。

行き場を失った日本の山に眠る杉を活用できないか、様々な活動を行っていきます。
日本全国スギダラケ倶楽部について詳しくこちら:【杉だら】日本全国スギダラケ倶楽部 【スギダラ】

日本全国に会員も増え、地域の人々とも連携を取りながら杉の活用のために様々な活動をしていく中で、若杉先生はある気づきにも似た疑問をもちます。

それは「今まで我々がクレームと呼んできたものはなんだったのか」ということ。

地域の中での杉の活用方法を模索し、家具を作るワークショップを行っているときでした。

ワークショップで参加者の制作物は素人が作ったものなので形はいびつになり製品としては欠陥品となります。

誰もクレームなど言わず嬉しそうに自分が作ったその家具を眺めている風景を見て、若杉先生は長年のマスプロダクトデザインに対する違和感の正体に気付いたといいます。

「企業利益のために効率化や合理化を図ることで失われたもの、それは“関係する”という価値だ!」

これからのデザインは消費者と生産者という関係に留まらず、共創者としての人材育成を行い地域の素材、人材を活かす仕組みやデザインを考えなくてはならないと考えたのです。

「自分の人生を豊かにするには、自らがあらゆることに関係することが重要」

そんな新しいデザインの形を考えていくうえで学生寮という環境には非常に大きな価値があると言います。

「全部自分事にしろ!クレームを言ってお客様気分じゃダメだ」

自分の人生と生活を豊かにするためには、全て自分事としてとらえ、あらゆることに自ら関係していくことが重要と説きます。

若杉先生は、学生寮には「学ぶ」「暮らす」「働く」など人生において重要なことを自分事にするだけでなく、すべてを学べる環境があるといいます。

最近つまらないなぁと感じたらみんなに楽しんでもらえるようなイベントを企画すればいい、寮内が汚いと思ったらどうすれば綺麗になるかを考えればいい。

共同生活だからこそ人任せにしたり、自分には関係ないと無責任になるようなことを自分事として考える。

そうやって自ら関係していくことで人生が豊かになるという体験をしてほしい。

そういった学びを得られる素晴らしさがチェルシーにはある。

物質に頼らない、本当の豊かさとは何かを学生のうちに考え、そして経験してみて欲しい。

そんな言葉で本日の講義は終了しました。


エネルギッシュな若杉先生の口調と、信念を貫き通そうとする姿勢から生まれる言葉の数々に寮生もどんどん引き込まれていきました。

デザインを通し「人間の本当の豊かさとは何か?」に迫ろうとしている今回の若杉先生の講義を受けて寮生はどう感じたのでしょうか?

これからの寮生にどんな変化があらわれるのか今から楽しみです!

若杉先生とチェルシーハウスの寮生で記念撮影

最後はみんなで記念撮影。若杉先生お忙しい中有難うございました!

チェルシーハウスでは随時入寮生を募集中!
とりあえず話を聞きたい、どんなところか実際に見てみたいという方は、是非一度チェルシーハウス国分寺にいらして下さい。
タイミングが合えば今回のようなチェルシーアカデミーに参加することもできますよ。

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