コミュニティ運営者の悩みが見えてきた
近年住まいや仕事の場に付加価値をつけて、コミュニティとして運用しながらサービスを提供していこうというニーズが高まっているようだ。教育学生寮と銘打ってコンセプトを掲げた学生寮を運営していると、同じように学生寮に付加価値をつけて運営したい、もしくは運営しているけれどアドバイスをもらえないかという相談が時折舞い込む。
しかしそういったニーズの高まりの一方で、ハコを作って人も集めたけれど、コミュニティというものをどのように手触り感のある形で扱っていけばよいのか分からないという運営者も少なくないのではないだろうか。
例えば運営の方向性が見えなくなったり、コミュニティメンバーとの泥臭い人間関係に巻き込まれて疲弊したり、提供している価値を見失って自然消滅してしまうといった事態も起こりうる。
2014年に全国に先駆けて教育学生寮チェルシーハウスを創設し、約6年間運営してきた私たちもまだまだ日々思い悩みながら試行錯誤しているところである。
コミュニティ運営はまさに総合格闘技
コミュニティ作りを任された現場担当者の悩みの深さは如何ほどだろうか。コミュニティ創りという仕事をどんな具体的なタスクに落とし込めば良いのか分からなかったり、生き物のごとく変動し続けるコミュニティの状況をどのように捉えたらよいか迷ったりする一方で幅広い業務への対応力が求められる。集客からイベント企画、webサイトの更新、契約関係の処理、現場の対応その他といった、まさに総合格闘技のようだ。
筆者もかつてコミュニティ作りに携わっていた時、そんな日々に追われていたから運営者の尽きない悩みはよくわかる。しかしそんな運営者のモヤモヤに伴走しながら、見えてきたことがある。
本コラムでは全国の悩みを抱えたコミュニティ運営者に向けて、その気付きをシェアしたい。
まずフォーカスすべきは「人」
コミュニティを考える時に、まずフォーカスすべきは「人」である。どんな人を惹きつけたいのか、集まった人々の中にどんなダイナミクスを生み出したいのか。つまりどんなユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)を創出したいのか、それはなぜかということを考えなければならない。
もしすでに提供しているサービスがあるのなら、そのサービスを通じてコミュニティメンバーにどのようなエクスペリエンスが生まれており、それを通じてどんな価値を提供できているのかということを見直した方がよいだろう。
エクスペリエンスとは何か
そもそもエクスペリエンスとはなんだろうか?厳密に定義することは難しいが、一般的に次のような特徴が挙げられる。
■エクスペリエンスは、一定期間にわたる人の言動、思考、感情を含む総体的なもの
■エクスペリエンスは、あるプロダクトやサービスに対する個人の主観的な認識である。
■エクスペリエンスは、その時々の状況やコンテクスト(文脈)に依存する
つまりエクスペリエンスとは非常に総体的であり、個人的なものであり、かつその時々の状況に応じて変わってくるのである。
これを踏まえると、学生寮という日常の大半を過ごす暮らしの場において生まれる全てのエクスペリエンスをデザインすることはあまり現実的ではない。
それではどうしたらよいのか。ここで重要なことは、フォーカスすべき「人」と、そのエクスペリエンスの「種類」である。
学生寮の場合であれば、コミュニティの中心となって盛り上げてくれたり、コミュニティの活動に積極的に関わってくれたり、友人に紹介してくれたりといったコミュニティエンゲージメントの高い人物に焦点を当ててみるとよいかもしれない。
コミュニティメンバーの声に耳を傾けよう
焦点をあてる人を決めたら、彼らの声に耳を傾けてみよう。どのようなコンテクストで、そのサービスにたどり着いたのかをインタビューさせてもらうとよいだろう。このインタビューは、彼らの切実なニーズがどこにあるのか、そのニーズがどのようなコンテクストから生まれているのかを理解する助けとなる。
チェルシーハウスの場合、顧客である学生がサービスに求めているのは、単なる不動産物件としての住まいの場ではないだろう。もし単に快適に生活するための住まいの場を求めているなら、より家賃が高く、より豊富なサービスを提供する学生寮を選ぶだろう。そのような学生寮ではなく、なぜチェルシーハウスを選んだのか。
それは例えば他の学生との出会いを通じた自分の変化のきっかけであったり、生活の場を自らつくっていく楽しさだったりするかもしれない。いずれにせよ顧客の切実なニーズが何なのかということに焦点を当てて、それを掘り起こすことで、自分たちが本来提供している、もしくは提供すべき価値が見えてくるだろう。
コミュニティの状態をメタに認知する
コミュニティでは日々さまざまなことが起こる。そしてそれらはメンバーの声として非常にミクロな情報の単位で運営者に届けられる。運営者にはそれらのミクロな単位の情報を、より大きなコンテクストでメタ認知する能力が求められる。
「誰々がこんなことを言っている、やっている」という個々の事象から、なぜそのような反応が得られたのか、なぜその出来事が起きたのかという背景に存在するコンテクストを読み取りながら、コミュニティのダイナミクスをメタに認知することに努めよう。
コミュニティの入り口から設計する
コンセプトを重視して運営している場合、コミュニティへ入る前に面談を行うなどして、コミュニティへの参加者にフィルターをかけている場合もあるかもしれない。チェルシーハウスの場合、コミュニティのコンセプトへの理解と共感をマッチングしたり、共同生活への適応力を確認するために、全入居希望者に対して入居前に必ず面談を実施している。
この際に得られた情報を利用して、コミュニティ内の人とつなげて、アクティビティとしてコミュニティに反映できるように、入り口で集める情報と、そのあとの活動までを設計してみるとよいだろう。
例えば面談をもとにペルソナを描き、新しいメンバーと興味関心の近いメンバーを紹介したり、小さなミートアップを開催したり、夕飯を囲む会を開催したりといった活動へと反映させていくと良いだろう。
また新しいコミュニティメンバーの情報を既存のメンバーに知ってもらうために、入居日カレンダーを作ったり、メンバープロフィールを場の一角に設けたり視覚的な情報で伝えていくことも大切だ。
アクティビティとして反映させた後に必ず評価しよう
コミュニティ内で様々なイベントを開催する際には、必ず参加者の人数や、誰が参加したのかを記録しよう。これらの記録を取っていくことで、コミュニティ全体の状態をメタに把握する助けとなるだろう。また開催した意図と比較して、目的は達成されたか、次のアクティビティにどのようにつなげていけるかを運営メンバーで評価する機会を必ず設けよう。
コミュニティを手触り感のある形で捉え続けながら、運営メンバー内でコミュニティの状態について話す共通言語をもち、一貫した理解を築くためにも、定量的、定性的な記録と評価というステップは非常に重要となってくる。
もっとも大切なことは、メンバーとの信頼関係の構築
最後に最も大切なことは、コミュニティメンバーと信頼関係を構築することだ。これはコンセプトやフィロソフィーをもったビジョナリーなコミュニティであればあるほど、重要な要素となってくるだろう。なぜならコミュニティの存在意義に対する共通理解と共感がなければ、そのコミュニティをどうしていきたいかというコミュニティの方向性や運営方針について、運営者とメンバーが同じ地平線で語る術を持ちえないからだ。
逆に言うと信頼関係を築くことができていれば、コミュニティ運営の中でコンフリクト(衝突)が起きたとしても乗り越えていけるだろう。コンフリクトを恐れず、コミュニティのなかにコンフリクト・マネジメントの文化を根付かせてゆけばいい。
このような地道な取りくみをコツコツと続けていく先に、サービスの提供者とその顧客という関係性を超えて、新たな価値を共創していくパートナーとして新しい関係性を結び、面白い可能性を生んでいけるコミュニティとして真価を発揮していけるのではないだろうか。
(執筆・編集:川原 麻亜耶)
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